僕たちはこれまで、PRのプレゼンスを高めるためには何が必要か? 新時代に求められるPRはどのような役割を担えばいいのだろう? とずっと考えてきました。

“広報” という制約を取り払い、さまざまな領域で “関係構築” を実践する方々と対話し、その学びを多くの人に共有することで反応を得ながら、「PRとはなにか?」という思考実験を繰り返してきました。それが、これまでの「PR3.0 Conference」です。

ポスト2020を生きるPRパーソンが身につけるべき”5つの武器”として、[CULTURE][DESIGN][ALLIANCE][TECHNOLOGY]といったテーマに取り組んできました。そして、最後のテーマについて考えるときが来ました。

しかし、社会の変化は、僕たちの予想よりも早く訪れました。

これまで当たり前とされてきたものが、当たり前ではなくなった。そのような状況の中で、僕たちの活動には、「個人の社会的責任」という視点が欠けていたことに気づかされました。 個の時代がやってくるならば、個人が果たすべき責任も伴う。これまで以上に、個の倫理観や想像力が問われるのではないでしょうか。

こうした変化のなかで、僕たちはPRを「関係性が生む新しい社会生態学」と捉えるようになりました。

これまでのPRは、あくまで企業・団体(法人格)が主体として論じられてきました。そこに個人格を主体として加えることで、PRを “3.0” にアップデートできるのではないか。この「新しい社会生態学」について考えることで、多くの法人や個人が社会的責任を果たすと同時に、自己実現に近づくのではないか。そんな仮説を持っています。

最後のテーマとして[LOVES]を掲げた理由は、先に述べたとおり、新しい時代を迎えるためには、多くの企業や個人が、これまでの倫理観や想像力を超えた何かを身につける必要があると考えたからです。その何かを[LOVES]と呼ぶことにしました。”S” は、それが行動であり複数であることを指しています。

[LOVES]を身につけていくために、僕たちPRパーソンがこれから理解を深め、取り組んでいかなければならない「問い」を、まずは9つ選定しました。


ジェンダーレス

ジェンダーレスな社会へと向かう動きが増えています。例えば、各企業では女性役員数の増幅や男性社員への育休制度の導入といったさまざまな制度が導入され始めています。

近い将来「女性初の〜」といった表現も消えてなくなり、マーケティングにおいても「男性向け」「女性向け」と言った概念は時代錯誤なものになっていくかもしれません。そのとき、PRはどうなるのか? いや、どうなるべきなのか。それについて考えていきたいと思います。


メディアリテラシー

コロナ禍において、さまざまなフェイクニュースがSNS上で飛び交い、多くの人が翻弄されました。フォロワー数の多寡に関わらず、誰かの無責任な発信ひとつが社会に大きな影響を及ぼしてしまう時代です。有事の際でなかったとしても、情報の受発信におけるリテラシーは必要不可欠になってきています。

無自覚なまま情報を受発信するのではなく、誰もが新時代のメディアリテラシーを身につけて自らの意思決定の重さを受け止め、言動をコントロールできるようになる。そのような社会のために必要なことを考えていきたいと思います。


複雑系

生命・組織・ネットワーク。世の中に存在するものの多くが、数式には表せない複雑に絡み合った情報をベースに成り立っています。人間の営みにも、一瞬一瞬において必ず意思決定があり、その1億2000万人分が入り混じって社会が構成されているそうです。それを踏まえた上で、どのドミノを最初に倒せば複雑な営みを解明できるのか?新時代のPRを考える上で欠かせない問いだと考えています。


環境

「エシカル」という概念が人の消費に与える影響が増加しています。倫理観を持って考えていくべき課題の中でも、環境問題にどう向き合っていくべきかを真剣に考えていくべきだと思いますが、まだ問題意識を持つ個人や企業は少数だと感じます。

テクノロジーが進化すると余暇が生まれ、人は物事をより深く考えるようになるという説もあります。より早く心の余裕を手にすれば、環境問題について考える人が増えるのかもしれません。あるいは余裕を持たなかったとしても、考えざるをえない状況になるのかもしれません。僕自身も不勉強ではありますが、キーワードのひとつとして挙げておきます。


エンターテイメント

個人がより豊かに生きる上で、「熱狂」も重要なファクターだと考えています。

例えば、アイドルを例に挙げると、人々の熱狂を集め、一定の方向へ導いていく凄まじい力を持っている。私たちはエンターテイメントをより貪欲に求めるようになるはずです。人々はどんなものに熱狂していくようになるのか? 探究していきたいと考えています。


ウェルビーイング

人が生きる目的は「幸せになる」こと。しかし、幸せの定義は人それぞれ違います。自分がどんな時に幸福感を得られるのか、そのためにはどんな行動を起こせばいいのかを考えながら生きている人はどれほどいるのでしょうか。

身体、精神、そして関係。これらの幸せを、どうすれば周りの人たちに継続して感じてもらうことができるのか。企業と従業員の関係性においても、大きな課題になっていくと考えています。


パートナーシップ

パートナーシップという言葉はさまざまなシーンで使われますが、これからその定義はより越境していくと僕は考えています。「クライアント」という表現はもはや古く、共犯関係という意味を内包する「パートナー」という表現に置き換え始めた企業も現れました。

仕事の相手が友人になるかもしれないし、逆もまた然り。固定的だった関係性を新たに捉え直し、再構築する。その手段を模索する時代がやってくるのではないでしょうか。


ステークホルダー

株主をはじめ、企業にとって利害関係の発生する関係者を指す「ステークホルダー」。企業をより発展させていく上では、この定義をもう少し広く据える必要があると感じています。

コロナ禍により、「自分にとっての他者」の存在が再定義されつつあります。企業にとっても、新しいステークホルダーを見つけ出すことに、大きな意味があるはずです。


パブリック

パブリックーーつまり“公共”とは一体なんなのか。それを紐解くためには、民間セクターにとどまらず、社会全体の営みにPRパーソンとしてどのように寄与できるのかを考え、対話する必要があると考えています

テクノロジーが進化していくこれからの未来で、パブリックアフェアーズの活動はさらに重要性を増していくはず。多くのPRパーソンを巻き込みながら、この領域をさらに深く学んでいきたいと思います。


今後の展開について

PRをアップデートするために、新たに学ぶべきことは尽きません。

加えて、Public Relationsの役割は、社会と共に変化するものです。まずは、現時点で考えうる「問い」を並べてみましたが、1年後には、まったく違ったキーワードを共有しているかもしれません。

それでも「問い」を立て続け、多様な視点を取り入れながら、徐々にPR3.0の輪郭を掴んでいきたい。そのために、共に探究するラーニングコミュニティを立ち上げたいと考えています。

今回の[LOVES]は、とても複雑なテーマなので、共有する範囲や方法もこれまでとは異なると思いますが、部分的にでも外部にプロセスを共有しながら、PR3.0を “ムーブメント” へと進化させていきます。